長野家族サービスツアー3

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煮売屋なびきの謎解き仕度 (ハルキ文庫 み 14-1) | 汀 こるもの |本 | 通販 | Amazon

 新刊昨日発売です。当座、電書の予定はありません。よろしくお願いします。

 

 泣いても笑っても3日目の朝が来た。
 2泊目のホテルは晩飯がついていない分安く、温泉の露天風呂に風情ある虫の音が響き、ビジホと違ってベッドだけでなくテレビの前にソファーが置いてあり、そしてWi-Fiにパスワードがかかっておらず「セキュリティは自己責任」だった……
 いや、ルーターにランダムな数字のパスワードを設定して各部屋にその数字を配ってくれ。
 何となく冬場のスキー客向けの宿な気がする。
 1泊目の温泉旅館は悪くないのだがなぜか前の客の荷物をワゴンに載せたのに俺のスーツケースはガン無視したという第一印象最悪の宿だった。
 それなりの値段のところを選んだはずなのになぜだ。

 

 さて3日目の予定はフリーだ。
 帰阪するだけで最低7時間かかるが、俺は移動だけの日で終えるつもりはない。
 14時くらいまでは観光したい。

 

俺「上田城を候補に入れたが、真田丸ブームのときならともかく今はどうなっているかわからない。戸隠神社は遠すぎるので善光寺にしよう」
姉「真っ暗な中でご本尊の扉に触れる戒壇めぐりというのがあるらしいぞ。内陣入場券600円」
俺「どうせならフルセット共通券1200円にしようぜ」
姉「シルバー料金がない」
俺「寺でシルバー割引してたらきりがないからだろう」

 

 ということで牛に引かれて善光寺参りが決定。
 カーナビをセットして高速道路に乗る。
 スムーズな旅路。

 

姉「ちょっと待ってどう考えても善光寺諏訪湖の方角じゃない」

 

 こう気づくまでは。
 出立前にGoogleマップ共有していたのが役に立ってしまった。

 

 100km単位で道を間違えていた。

 

 車載カーナビ【シンギュラリティ】(愛称)はどうやらひらがな入力「ぜんこうじ」で、長野県に3か所ある善光寺諏訪市のを見つけてしまったらしかった。
 この現象は尾道「せんこうじ」でも起きた。
 というか全般に寺の名前は検索しづらい。
 悲しいかな車載カーナビは5Gとかではない謎のネットワークで渋滞情報や気象情報をせっせと拾ってきてどこのパーキングエリアにサンクスがあるとか知っているのに、iOS16のYahoo!カーナビより遥かに頭が悪い。
【シンギュラリティ】はもうサンクスが全部ファミマになってしまったことは知らないし人間には見えないがこいつだけガソリンスタンドだと思っている【幻影】もたくさんある。
 しかし画面が見やすいのは圧倒的に車載カーナビなのでこういうことになる。

 

 諏訪湖SAで牛に引かれて参る長野市の方の善光寺門前町蕎麦屋に目的地設定を変更。
 ヤケクソで飛騨牛おやき食って諏訪湖の美しい写真を取って、気を取り直して本物の善光寺を目指すことに。

 

俺「俺この旅で安曇野5往復くらいしてるー! てか最初から戸隠行ってた方がむしろ近かったなー!」

 

 ファンボックスのネタに事欠かない家族サービス旅一行。
 読者サービスでもあるのか?
 やっと12時過ぎに長野市到着。

 

俺「……!? と、都会だ!」

 

 よく「日本はイオンとフランチャイズファミレスで地方がどこも同じ景色になってしまう」と言う。
 安曇野にはいくらセブンイレブンと牛丼屋があってもこれは全く当てはまらなかったが、長野市はガッチリそうだった。
 ここに来て昨日までいた安曇野が口笛がなぜか遠くまで響いて日本ぽくない杉でも松でもないメタセコイアめいたやたら大きい木が至るところにそびえ、元傭兵の偏屈なアルムおんじとあの雲が私を待っているとびきりのアルプスの麓で、長野市が灰色の雲に覆われた石の町フランクフルトであることが判明。
 アルプスで彼岸島を読むな陰キャ

 

俺「……この片道三車線の【都会】の幹線道路沿いにリンゴ畑があるのを見ると、信号なしの山道15km先で南アルプス天然水に育まれていたあのリンゴ農家のリンゴにプレミア価値つくな」
姉「だろう!?」
俺「レギュラー178円だ! 安曇野に持っていく方が手間がかかって高くつきそうな気がするのに何であっちのが安かったんだ!? 日本経済がわからん! 都会の人からは多めにガソリン税を徴収しているのか!?」

 

 安曇野のガソリンスタンドはセルフとか言って支払いを付属のコンビニでやらせてついでにドライブ中の飲み物やらガムやら買わせる気満々だった。
 その後、大阪府下の我が家の近所に安曇野より安いガソリンスタンドを発見。日本経済がわからん。

 

 しかし長野市はただのフランクフルトではなく川中島古戦場の史跡が国営公園になっている。多分武田信玄が軍配掲げて上杉謙信の刀を受け止める像がある。特に推しではないので考えないようにする。
 古戦場があるのは岐阜県みたいだが岐阜県は馬が突進できないように都市部のあちこちに変なカーブがある、そういう仕掛けはない長野市

 

姉「前の職場の人に好きな戦国武将を聞いたらすごい悩まれた」
俺「で、答えは?」
姉「浅井長政。わたしはただ織田信長が好きか嫌いか聞きたかっただけなのに」
俺「それは重度の信長の野望プレイヤーでうっかり二階堂盛義とか長宗我部とか六角とか答えられないという配慮だったんじゃないかな。そういうことにしておこう。てかその質問、範囲が広すぎるから最初から信長・秀吉・家康の三択に絞っとけ」

 

 今度こそ善光寺門前町で1番流行りの行列のできる蕎麦屋の二八・とろろ蕎麦。
 この店の十割蕎麦は開店前から並ばないと食えんらしい。
 情報の味がする。
 蕎麦湯ってあんまり飲まんのだがつゆの味を味わうもんなのか蕎麦のゆで汁としての味を味わうもんなのか。

 

 さてこるもの先生は御朱印帳の3冊目がそろそろいっぱいになりそうなので、御朱印集めを卒業することにした。
 神田明神・讃岐白峯寺太宰府天満宮もコンプしたし棺桶に入れる分には3冊で十分だろう。
 御朱印帳3冊の功徳で帳消しにならんほどの罪業があったら諦めよう。

 

 さあやっと修学旅行生でごった返す善光寺だ。

 

俺「仁王さまは……高村光雲!? 最近の人だな!? 運慶快慶とかじゃなくて!?」

 

 この神社仏閣マニアがうるさい2022。

 

俺「ここも頼朝と桂昌院かよ。俺、頼朝が寄進した寺も桂昌院が寄進した寺も今年3軒目だぞ2人ともそんなに金が余って宗教に入れ揚げてたのかよ」(※寺の単位は「寺」です)

 

 南都焼き討ちの反動で源氏がものすごい勢いで寺社勢力を味方につけていたことがわかる。
 帰ってから調べたら善光寺、この辺の寺社勢力としては超大手だったんだね。
 寺宝館とか見て確認したかったが豪快に道に迷って時間が押していたこともあり、入場料払って見るのはお戒壇巡りを含む内陣だけということに。
 100kmも道を間違えていなければ寺宝も見たのに……

 

 境内のあちこちに入場券を売る券売機があるのが違和感。
 1か所に1台しかないのも違和感。修学旅行生がたかると使えなくなる。
 入口に3台くらい置いて共通券ばっか売った方がいいんじゃないの?

 内陣に入ったところ、何やらの祈祷があってありがたいので見ていけと言われて聞くことになる。
 定例の勤行とかではなく、よその人が頼んだ健康祈願とかの祈祷だった。

 

俺「……祈祷頼んだ人、新潟はわかるけど京都もいたな」
姉「京都の寺で祈祷してもらえばいいのに」

 

 上方から目線を炸裂させる俺たち。

 

 お戒壇巡りとは:
 善光寺の本尊は仏教伝来の時代に蘇我氏に打ち捨てられたものを拾って大事に保管していたものなので、一般公開していない。代わりに鎌倉時代に作った像を7年だか4年だかに1回ご開帳している。
 お戒壇巡りでは真っ暗な地下通路を通って本尊を封じた部屋の錠前を手探りで触って本尊と結縁する。
 何で錠前触ったら本尊と結縁することになるのか理屈が全くわからん。

 

 わりと足許に点々と小さい電球ついていて前の人の背中くらいは見えるのだが、それでも現代にあるまじき暗さで非日常感がある。
 何か、前の老夫婦のおばさんの方がメチャパニクって小さく悲鳴を上げており、途中で立ち止まった。
 このご時世、赤の他人に接触するのは避けたい。
 闇より密の方が怖い。
 俺の後ろは家族だからどうとでもなるが、前の人にあんまりぶつかりたくないので渋滞が発生。
 どうなることかと思った。

 

俺「なかなか愉快だったが怖さ、やり遂げられなさでは東大寺の柱の穴をくぐるやつの方が上回ると思う。あっちは成し遂げられなかったときどうなるかの恐怖が違う。非日常体験で信仰心を強制発生させると言うなら巨大な長谷観音の足の指を触らせて無理矢理ひれ伏させる方がテクニカルだった。足の指を触って結縁する方がわかりやすいし。そもそも闇が恐ろしいのはここ最近ではないか? 電灯が普及するより前はこれくらいの暗さは日常では?」

 

 御朱印帳3冊目の寺マニアは傲慢だった。

 

姉「仏教に宗派がまだなかった推古天皇の頃の……?」
俺「嘘つけ。南都六宗ナメんな」

※仏教伝来から遣隋使で南都六宗の僧が来るまでにタイムラグがあるらしい。

 

俺「さあリンゴ狩ってジビエジンギスカン食ってわさび農園行って上高地に思いを馳せて諏訪湖を見て蕎麦を食って善光寺にも来た、長野で果たすべきノルマを果たしたので帰阪!」
姉「いつも旅ってこんなギチギチに用事詰めてんの?」
俺「ギチギチに用事を詰めつつ神社の階段とかで挫折して近所のWi-Fiの入る茶店で2時間ツイッター見たりしてる」
姉「楽しい?」
俺「俺はキミが何年かに1回南国リゾートに行きたいとか言い出す方がよくわからない。くつろぐのは家でよくない?」

 

 噛み合わない家族間の旅行概念。

 帰りは7時間の車の旅とのことだったが、名古屋で路上に落下したプロパンガスボンベが爆発。朝に爆発して夜まで撤去してたので岐阜県まで大渋滞。

 

 大渋滞のお伴に、ファミマのちいかわ和菓子。

 

姉「思えば親戚が全員大阪府内で完結している俺ら、盆の渋滞という概念と無縁で生きてきたがあれってそんなに親族の圧すごいのかな」
俺「言うて俺もコミケ出てたときは新幹線の通路に座ったしな」

 

 もう高速バスに乗る体力はない俺ら。
 他人に遠慮しながら寝るより起きてる方が楽なんです。
 お疲れさまでした。