長野家族サービスツアー2

(前回までのあらすじ)
 家族サービスでやって来た長野県安曇野
 なぜか姉は道端にリンゴの木が存在し、リンゴの実が生っているのを目撃した途端に人が変わってしまった。

 

姉「リンゴ狩りじゃー! 一般的にシーズンは8月上旬から12月までって! 今は9月後半!」

 

 ……そういえば昔、遠足で葡萄狩りに連れていかれたっけなあ。
 幼稚園の頃。ということは40年ほど前。

 

俺「……果糖は血糖値を上げやすいぞ。リンゴってその場でそんな何個も食えるもんか? 宿の売店で4個500円で売ってたの、そこそこ安くない? スーパーの相場は1個150円?」
姉「リンゴを【木からもいだ】という実績を解除したい! 梅と桃と柿とブルーベリーはうちの家でも獲れるしイチゴは河内、ミカンは和歌山、梨と葡萄は岡山まで行けば可能だが、リンゴの南限は長野、北限は青森で意外と北海道では獲れない!」
俺「実績解除……リンゴはそんなポケモンみたいなもんだったのか……」

 

 姉はその昔、奈良県で柿をもぐ仕事をしていた半農人である。
 こうして書き出すとうちの畑で獲れる果物、多いな。

 

俺「わかった、キミがリンゴをハントすることに反対はしない。ただ、世間にはそこにいる全員が参加者にカウントされて料金を取られるタイプのバイキングやアルコール飲み放題があるな? どうにか俺だけカウントされない方法を検討して。最悪、駐車場でスマホの電書読んで時間潰すから。あんなん学校行事数十人数百人で行くから時間がかかるのであってキミがリンゴを狩っても作業時間はせいぜい1時間以内だろう」
姉「よし、こるものさんは車で待っていたまえ。じゃらんで宿の近くのリンゴ農家を予約した。入場料なし、リンゴを収穫して持ち帰る分の料金が発生するタイプのリンゴ狩りだ」

 

 インターネット社会すげえな。
 それで翌日やって来たリンゴ農家。農場ではない、農家。

 

 こんな感じの信号のない道を15km走った先。
 交差点はあっても信号はない。

 

 黒部アルペンルートを臨み、山の美しい湧き水が流れる雄大な大地。確かにそうだ。旅館の水道の蛇口に「南アルプス天然水飲み放題」って札がついてた。写真撮っとけばよかった。

 

 農家の横に車駐めて1人、マガポケで『彼岸島』読んでたら他に2組くらいリンゴ狩りの客が車で来た。結構賑わっていた。

 

 穂高の大地ですくすくと育まれたリンゴ(写真・姉)

 

 まあどっちかというとこんなところに来てソシャゲやってマガポケのデイリーチケットが勿体ないとか言って彼岸島読んでた俺の方がおかしいわな。
 しかも彼岸島は期間限定無料イッキ読みキャンペーン中だった。
 しかし無料だからって1日で一気に全巻読みたいタイプの話ではないのも確かだった。
 髪短くて童貞臭が濃い初期の宮本明、見ててむずがゆいな。

 

 農家のあんちゃんがリンゴの品種をいろいろと教えてくれたが、「フジ」以外全然聞いたことないやつだったような気がする。

 

姉「獲ったどぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 何だか知らんがリンゴ欲は発散されたようで何よりだ。
 健康に腹が減ったら、昼飯は有名な鹿ジビエの店だ。

 

 関西人はジビエに対して独特の感情がある。

 

俺「……日本人の一般的な宗教感覚に照らし合わせて、奈良県の鹿ジビエって食べにくくない?」
姉「わかるー」

 

 奈良公園の鹿は春日大社の神鹿、神の使いとして崇められている。
 春日大社藤原氏氏神
 かつて、鹿を殺した者は【石子詰めの刑】に処されたらしい。

 

 石子詰めとは:罪人を生きたまま首まで穴に埋めた後、近所の皆で死ぬまで石を投げつける(※諸説あります)

 

 このため、奈良県では朝早くに起きて家の前に鹿の死体がないか確認。死体があったら隣の家の前に移動して自分は知らん顔をする、という県民ジョークが近畿一円でまかり通っていた。

 

俺「奈良県飛鳥村で鹿ジビエ串の屋台が賑わっていたのを見たことがあるが、どうせなら長野県の罪のない鹿ジビエが食べたい。原罪の穢れなきギルティフリーの鹿肉を」
姉「別に藤原氏に気を遣う理由ミリないけどな。今どき、鹿は害獣で農家の被害が洒落にならんらしいし食べて応援しなければ」
俺「リンゴを鹿から守れ」

 

 ということでまた15km車をカッ飛ばしてやって来た。

信州信濃大町 鹿ジビエとボリューム満点手作り定食カイザー

信州信濃大町 鹿ジビエとボリューム満点手作り定食カイザー cdn.iframe.ly  

 鹿ジビエステーキ、美味し!
 味噌汁の実が多い。宿のもそうだったがちょいちょい何かわからない野菜が入っている。野沢菜
 ……それはいいんだがここのご飯の盛り方、スキーで来る体育会系大学生向け……
 肉は多すぎるかもしれんとシェアしたがまさかこんなにご飯の盛りが多いとは……

 

 ついでに頼んだリンゴのタルト、いちいち注文を受けてから焼く。ホカホカ。シナモンたっぷり。

 

 そしてついに今回の旅のメインイベントである大王わさび農場。

 

 観光バスが何台も駐まり、修学旅行生もいて景気がいい。
 が。

 

俺「……入場無料ってここ、わさび関連の土産物を売ってわさび関連のフードコートで飯を食わせて……それだけのためにバスでドカッと観光客を連れてくる場所、そういう需要はわかるが、入場料無料でこんなにピカピカのトイレが建つほど儲かって……? 無料だから近所から犬の散歩の人が来てるが……」

 

 しかもわさび田は寒冷紗で覆われている。5月から10月、流水を15度以上にしないために太陽光を遮断している。これ人間がかけてると思うとぞっとする。

 

 隙間からかすかに下の清流のわさび田が見える。

 

俺「……わさび農場ってわさび掘ったりその場でサメの皮でおろして蕎麦を食ったりするのかと思ってた」
姉「蕎麦は食わせてるかもしれないがわさびは掘るものではない」
俺「なんか、リンゴ狩りしといてよかったな」

 

 実はわさび田よりも駐車場の外れの水車小屋の方が水の綺麗さがわかる。
 水中に草がフッサフサ。
 濁った川では水中に太陽光が射さないので大抵の川で水草は水面に「浮いて」いる。
 川の底から草が生えているのはすごい。

 

 大王わさび農場の「大王」とは坂上田村麻呂に征伐された魏石鬼八面大王が……
 坂上田村麻呂って聞いただけで「エロゲかよ嘘くせえ」と思う悪いオタクですまない。
 しかしマジで何なの。

 

 名物わさびソフトクリーム(ミックス)
 通常わさびソフトクリームはわさびの清涼感のみで辛さがなく、恐らく辛さを求めるVtuberや大学生は生わさびを添えたプレミアムソフトを頼むものと思われる。

 

俺「……これ、修学旅行生は何も悪いことができない場所だから連れてこられるやつでは? ちょっとやそっと抜け出しても盛り場が近所にない。俺が高校生のときは北海道の山奥の綺麗な滝や湖だった」
姉「飛鳥村の亀石とかもそんなんだ。どうせ田んぼと石しかない」
俺「で、俺たちはこの後は? 近くの、日本百名山田淵行男記念館に行って?」
姉「昨日、旅館の飛騨牛つきの豪華な夕飯を食べたので夜はその辺に死ぬほどある信州蕎麦を食べる。昼がジビエでこってりしてたから夜はあっさり。長野に来たからには蕎麦でしょ」
俺「おやきはパーキングエリアでも食べられそうだし、俺あんま野沢菜入りのには興味ない。小豆あんのがいい」
父「梓川を上流に向かって上高地を眺めたい。車で道路を通るだけでいい」

俺「……何て?」
父「新島々駅まで梓川沿いに」

 

 梓川は赤矢印。

俺「……ちょっと待った。【梓川】を経由する地点をカーナビに設定できない」
父「梓川を上流に向かって」
俺「上流という概念は俺にもGoogleマップにもない!」
姉「川沿いに道路がなくはない」
俺「その道路を通る地名をカーナビが知らん! その辺の住所がまるで登録されてない! 生協センターはダメだった!」
父「上流に」
俺「このカーナビ人間に川の水面を見て上流か下流か見定めてからハンドルを切れと!?」

 

 ここでもう1つ問題が発生。

 

俺「お、おい……Googleマップを見てたらこの辺の蕎麦屋、全部【15時】閉店だぞ!? こうしている間にも売り切れた端からどんどん閉まっていく!」
姉「マジで!? ……うおおおお、ホテルが晩飯なしだから安いプランだったがこうして見ると近所に夜に開いている飯屋がない!」
俺「安曇野穂高の住民は晩飯を外で食わないのか!?」
姉「一番近い夜営業のチェーン店が15km先のスシロー!」
父「梓川を上流に上高地を」

 

 父の願いを叶えるべくいろいろ走り回った挙げ句たどり着いたのがここだった。今見ると皮肉な写真だ。関西グルメ巡りね……
 結局晩飯はホテルから8km離れた地元の焼き肉屋で、なぜか長野でよく見かけるジンギスカンを食べた。
 昼が鹿ステーキで若干のかぶりを感じたがここでスシローに行くよりマシだった。

 

姉「蕎麦は明日、善光寺で食べよう」

 

 善光寺編に続く!