白桃殿さまご乱心・設定・あとがき編

 あとがきです。ネタバレ注意。ここに置くものは後で消したりしないので慌てないでちゃんと本編を全部読んでから読んでください。

『探偵は御簾の中 白桃殿さまご乱心』(汀 こるもの):講談社タイガ|講談社BOOK倶楽部 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000363451
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・プロット編
『鳴かぬ螢が身を焦がす』を書き終わって、3巻ゲストは兄の妻ということに決定した。とりあえず名前だけ決める。「白桃殿明子」で「はくとうでんあきらこ」。……この時代は訓読みにした方がそれっぽいので「しらももどのめいし」なのかもしれんが何となく。
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 1巻は邸の中にいる忍さまが敵襲を受ける話。2巻は忍さまが邸から出る話。
 なので3巻は子供がさらわれるなり何なりしよう。子供が加害されたら皆怖がるだろう。特に赤ん坊の二郎を煮て食うとか言い出したら忍さまはこれまでと違う動きをするだろう。
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 悪の宗教団体がいることにしよう。白桃殿さまは兄に振られたショックでカルトにハマったのだ。
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 メイントリックは宇治拾遺物語『博打子聟入』にしよう。祐高さまが兄の声真似で天井裏から話しかけて解決するのだ。
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 つまり兄の邸・白桃殿には天井がある。しかしフツー、寝殿造りに天井はない。何ていうか屋根裏の特に隠さなきゃいけない隙間を隠すパーツという感じで現代家屋の「天井」とは全然違う。檜皮葺だし。
 ここで奈良時代の寺社建築を勉強し、「格天井」辺りにするのを検討。
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 どのみち、「あるはずがない天井があります!」とか小説に書けないので、天井画をつけてそっちを話題にしよう。邸の名前が白桃殿。なら絵は桃の花なのだろう。桃なら和歌よりは漢詩のイメージなので漢詩を添えて、これがトンチキミステリ消防法無視違法建築であることがバレないように偽装するんだ。
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 書いてたら何か、千枝松くんが雉の肉食べてるところでメチャ詰まった。
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 ヤケになってAIのべりすとに助けを求めた。
 やってくれ、AIのべりすと!

「ただ、小夜子が嫁いで来たときのような騒動が起きかねないことは確かだ。その前に、千枝松には小夜子の腹にいる子供のことを知らせておいた方がいいかもしれない」

 誰よその女!!!!
 ここにいる登場人物は忍さまと千枝松と葛城さんだって教えたのに勝手にオリキャラ入れてんじゃねえ! 小夜子って、平安の命名法則ではそこに「子」はつかん! 千枝松くんはこの話で唯一の童貞なのに変な話に巻き込むな!
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 駄目だ! AIのべりすとは駄目だ! 自分で考えるしかない! 当たり前だ!
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 子供が、かつて兄上が白桃殿さまにあげたのと同じ花を持ってきて改心させたら何かいい話みたいにまとまるのではないか? その前に、前フリとして人違いをして忍さまに花を渡してしまうのだ。よし。実子より妾の子にしよう! 行け、小鮒くん!
白桃殿「花なぞつまらん。小鮒、どうせならこちらを持っていけ。論語の書き取りじゃ」
 は、はい?
白桃殿「忍の上の心胆を寒からしめるのじゃ! 4歳児が書いた漢文を見れば賢い女はビビるじゃろう、その方が面白い! 人妻対決じゃぞ!」
 え。あのー……
白桃殿「男を待ってさめざめと泣いている女など、嫌じゃ。まろ、婚約破棄令嬢なので内政チート無双で輝くのじゃ。そう。平安にはまともな教育機関がないのでその辺イジるだけでメチャ頭がよう見えるのじゃ。まろが自分らしくチートで輝いておればあんな祐長などの帰りを待たずとも、勝手に朝宣あたりが理解ある彼くんヅラでまとわりついてくるじゃろう。たまには相手してやる。忍さまはまろの〝デキる親友ポジ〟にしてやろうぞ! 充実した人生!」
 プロットと違うんですが……
天文博士別当祐高さまがスムーズに天井裏に登れるようにこちらの式神を用意しました! その名も〝神泉苑の御亀さま〟です!(ドヤァ)」
 はい?
祐高「……何やら当初言っていた話と違うくないか? 悪の宗教団体は?」
天文博士「しかし白桃殿さまの事情は我々にはわからないので! 大丈夫です、ミステリの序破急カタルシスあるいはカタストロフ。ハッピーエンドじゃなくていいのです!」
白桃殿「そもそも〝男に捨てられて鬼と化した女を陰陽師が調伏し、その後にちろっと別当祐高どのが現れて笛を吹くなどして「祐高さまはいい男だなあ」とか言って終わる話〟を書きたいのか? それが令和にお前の文章力で書くべき話か?」
 ………………………………。
 祐高さま、天井に登って!
祐高「わ、わたしには最初のプロットと同じ脚本しか渡されていないのだが!? プロットの方針が変わってこれは変わらないのか!?」
 ごめんね! そのままやって!
祐高「聞いておらぬ!」
 ↓
 終盤から宗教団体が姿を消し、代わりに「嘘をつけなくなる薬(自称)」というとても恐ろしいものが出現。一連の流れが「ボスラッシュ」になる。
 ↓
 初稿完成。改変前は「白桃殿さまご乱心」とは「乱心した白桃殿さまを皆で正気に戻す話」だったが、改変後は「まともな白桃殿さまをよってたかってご乱心させる話」になっていた。なぜだ。
 しかし担当さんにウケた。
担当「〝嘘をつけなくなる薬〟が怖すぎるんですが祐高はこれ泣きますよね?」
俺「泣きますかー」
 しかしいくら何でも1人分の涙のしずくが天井を貫通はしないだろうから何か工夫しないと。
「子供を煮て食う悪の宗教団体」周りの描写がごっそりなくなったが千枝松くんが女装でついてくる理由、「嘘をつけなくなる薬」を作る人は必要なので、ふたなりの子と薬師だけ残った。何とか1人にまとめたかったが2人とも残ってしまった。
 ↓
 ゲラ一校。
 当時、直接天井板に座っていた祐高さま。

 

校閲「格天井は一通り建物を作った後に下から釘で打ちつけているだけなので、180cm成人男性が座ったら底が抜けます。せめて梁に座りませんか。それと、このままでは天井裏に入る入口がありません。格天井は飾りでついているだけなので後から職人が天井裏に入る理由がミリありません(ものすごい致命的なトリックの穴)」

 

担当「……ゲラの〆切、何週間か延ばしますか?(延ばさなかった)」
 こうして俺は真冬の最中、府立図書館に真面目に「木造建築の歴史」を調べに行き、そして図鑑をコピーしようとして財布を忘れてコピーどころか駐車場から出られなくなる事態に陥り、これまでにない地獄を見た……(結果、全然使わないLINEpayに3千円だけ入れておくなどの生活の工夫が残った)
 ↓
「白桃殿の格天井は、兄上が呪詛を疑って一度外したので外れる部分を天文博士が知っている」
天文博士も天井裏までついてくる(ゲラ一校では勝手に祐高さまが梯子で登るだけだった)」
「メインで設計・建築したのは右大臣で一回兄上がわからんように破壊して、物語終盤で白桃殿が更に衝立部分も破壊する」
「なんとなく祐高の兄上の回想、最後の忍さまのモノローグがウェットでポエットになる」

・元ネタ解説宇治拾遺物語9-8『博打子聟入事』
鬼に顔を吸われた婿の話(巻9-8)|阿留多|note 
https://note.com/arutacomic/n/nc6885b7fecea
 こちらがマンガでわかりやすい。
 平安時代に「イケメン」「二枚目」という言葉はないので原文では「天下一の顔よし」です。清少納言も使っている「顔よき」。
 宇治拾遺物語は男が蕪でマスターベーションしたらその蕪を食った娘が処女懐胎したとか皆大好き平仲おまる事件とかそんなんばっかりです。とっつきやすいと言えばそう。

 

今昔物語集 巻二十九第十三話『民部太夫則助の家に来たる盗人、殺害人を告ぐる語』
・第二十八話『清水の南の辺に住む乞食、女を以て人を謀り入れて殺す語』
 なぜか今昔物語には2つも「鉾を持った男が屋根の上から、室内の女の力を借りて中の被害者を突き殺そうとする話」がある。しかしミステリという概念も密室殺人という概念もない時代なのに密室トリックだけあって変な感じ。
『清水の~』の方は舞台が阿弥陀ヶ峰でわりとそのまんまです。しかし「従者とか皆殺しにされた」って鉾持って屋根上らなくてもその方法で主人公も殺せばいいやん!ってなる……邸が堀で囲まれていて死ぬほど広くて犯人側の共犯者が何人いるかわからない、平安建築は広ければ広いほど壁がなくて密室じゃない、など困る要素がたくさんある。
 当時の民家の屋根の高さがよくわからんかったが長くて太い木材はこの時代、伊勢神宮や貴族の豪邸の建築に回されて商業ベースに出回ってないので三間で足りんということはないだろう……祐高さまの身長に対して、軒はもっと低くするべきだったかも。

 

第73回『融通念仏縁起』下巻「牛飼童の妻の出産」を読み解く | 絵巻で見る 平安時代の暮らし(倉田 実) | 三省堂 ことばのコラム 
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/emaki73
 民家の構造はこういうのを参考に単純化しています。
 多分板だけだと隙間風が入るので土壁>板壁という感じ。漆喰はレアで寺社本殿の一部で、貴族邸でもあんまり使われていない。

 

堤中納言物語『はいずみ』
宇治拾遺物語巻3-2『藤大納言忠家物言女放屁事』
『虫愛づる姫君』だけ異様に人気がある堤中納言物語だが短編オムニバスで『虫愛づる姫君』は男と文通を始めたところで「第一部完、作者の次の作品にご期待ください!」とエタっている。
『はいずみ』は男が急に訪ねてきて、慌てた姫君が眉墨と白粉を間違えて顔を真っ黒に塗ってしまう話。男は何も言わず帰ってしまうが、それが原因で別れたかというと微妙。
 宇治拾遺物語のこの話は、イケメンと美女がイチャイチャしていたら女の方が大きな音で屁をこいて、絶望したイケメンは「出家しよう」とフラフラと部屋を出たところで「……あの女が恥かいただけなのにわたしが出家する理由、ないじゃん!」と我に返る話。恐らく、女とは別れた。
 男に捨てられたら女は最悪死ぬ時代、女の死亡フラグはすごいしょうもないところにあったりした。
 本編祐高さまのやらかしだが、普通の男は恐らく、しょうもない女の恋人で体験して本命の高貴の姫君であんなことにはならない。

 

・ガジェット設定・白桃殿邸
 この時代、建物の敷地面積を「畳」や「坪」で表現せず、「柱と柱の間=1間」で、「幅4間×奥行き3間」とか表現します。寝殿造り、広く見えてもゴンゴン柱が生えてて几帳や屏風を立てるときに柱に引っかかったりする。つまり御帳台はどんなに大きくても1間×1間。祐高さま、御帳台から烏帽子の先や足の先出てる可能性ある。
 白桃殿の北の対が4間×3間で端から登った祐高さまが真ん中の方に行くのに2間移動する必要がある。
 2巻で兄上が祐高さまを呼び出したのはここの「寝殿」の表側と裏側で3巻には出てきていない。平安貴族の邸、死ぬほど広いので。
 ちなみに客の序列は、身分の順で「白桃殿>呉竹>忍>小夜」となるところを妹のよしみで「白桃殿>小夜>呉竹>忍」という感じで、北の対に白桃殿と小夜、東の対に呉竹、西の対に忍が泊まった。
 東の対は総領娘が聟と暮らす特別な建物で、西の対が1番ショボいがなぜかアシンメトリーが流行り出した平安後期は西の対に釣殿をつける掟になっている。シンメトリーを守っている家では東の対にも釣殿があったりする。
 普段は東の対に鯉寿丸・鮎若がいて西の対に小鮒がいる。
 陰陽五行説で方角によって建物の格付けが決まっているが、陰陽五行説で「北の対=冬の庭」とかしてしまうと、忍さまが年がら年中「雪が映える冬の庭」にいるのきっついということになってしまう。春の庭が夏になっても耐えられそうだが年中冬の庭にいるのはちょっと。
 多分、別当邸にも何かあだ名があるべきなのだろうが「しのぶ草の生える宿」とか何とか謙遜して言ってるんだろう。

 

・キャラ設定・白桃殿
 この話は忍さまが逆張りで夜中に牛車に乗るだけで泣いてしまう保守的な姫君なので、平安ラノベにいがちな本来主人公に相応しい行動的な女は全員敵に回ることになった。
 女の一人称が全員「わたし」はキツいが「わらわ」は面白味がないので思いきって「まろ」。男の「麻呂」はハードルが高いが女でひらがなで「まろ」ならアリだろ、多分。
 バトルフォームは男を恨んで蛇と化す「清姫型」の生成りの鬼・ファイヤー白桃殿。水と火の属性を併せ持ち、火炎攻撃では物理攻撃無効の祐高さまを一人だけ煙吸って焼死させることが可能。メインウェポン・鏡台は熱田神宮で見たやつ。「脇息投げ」を最初にやってしまうので、殴るのに丁度いい武器を探していた。
 白桃殿さまは仏教が嫌いでセクハラパワハラしか話題がないだけで至って真面目な人だよ。
 しかしこの人が作った学校、いじめの鉾先を固定するためにメチャ身分が低くて頭がいい子ばっかりのクラスがあると思う。

 

・小夜
 七つの大罪【暴食】を司る変態人妻。
 白桃殿さまは仏敵だが真面目だし呉竹はスケベなだけで変態人妻なのこの人だけだ。
 ハッピーエンドバージョンでは1人だけ不幸のどん底で終わる予定だったが、展開を路線変更するときになぜか自ら幸福のハードルを下げた。
小夜「この際、主上東宮でなくても皇子さまと結婚できたら何でもいい!」
忍「そう言われるとうちの姉さまが宰相中将さまと離婚して兵部卿宮さまと再婚したっていう1巻から出てくる話をしないわけにいかない……平安の19は再婚ガチャを回す年齢……」
小夜「忍さまは親切じゃなあ!」
忍「いやあなたが無理矢理……」
 最初、「胡蝶」という名で書いていたが忍さまと並べると「胡蝶しのぶ」になるのに気づいて名前を一括変換で変えることになったがいいのを思いつかない……
 ……AIのべりすと! 「小夜子」はナシだが「小夜」という単語はあるから「小夜の上」ならいけるぞ!
 ということでAIのべりすとの考えた文章を2文字だけ採用することになった。
「イモリの黒焼きを砕いて相手の頭に振りかける」おまじないが成立したのは江戸時代。
「繁殖能力旺盛なヤモリは媚薬になる」→「伝言ゲームしている間にイモリを黒焼きすることになる」
 ということでこの時代は多分ヤモリを捕まえて無理矢理雄と雌を交尾姿勢でくっつけて2匹紐でくくって壺の中に入れて黒焼きにしたりしていたはずだ。

 

・呉竹
 清涼殿庭の呉竹にまつわる何らかの和歌でも詠んだのだろう。
 最年長だが夫の弾正尹大納言は弾正尹が何をしているかわからない職なので大将祐長の方がちょろっと格上。
 弾正台は司法機関なのだが贋金作りは検非違使、窃盗も検非違使……と振り分けていたらだんだん何でもかんでも検非違使が処理することになり、検非違使別当も高級貴族になると貴族は皆そっちを頼るので、この頃、弾正台は官職だけ残ってて仕事がなく近衛大将より見劣りする。
 だが祐長は権大納言で大体同格。実は大納言と権大納言はすごく違うのだがそれは4巻で。
 本人たちはそんなに格差を感じてないし妻がいきなりこんなに媚び媚びになると思いづらい。親世代で差がついて右大臣とその娘・白桃殿に子供の頃からかしずいている媚び方。
 朝宣襲撃イベント経験者。
 恐らく1番相性がよく仲よく円満にやってる。
 他の誰にもわからない文学の機微とかあるんやろ。知らんけど。
 白桃殿は「あー。噂ほど大したやつじゃなかったわー」とか言っている。
 襲撃イベント未経験は小夜だけだが「姉妹は代表1人。姉妹丼はなるべく避けて多様性を求めたい」という謎ルールでハネられていて好みがどうとかではない。
 小夜はどのみち必死で助けを求めてくるのであんまり朝宣の好みでない……
 女から男にアプローチできないのでこういう恋愛低酸素症に陥ったところを人知れず掻き回す恋愛スカベンジャーが巡回することで社会が成り立っていた。
 あいつの夜這いで救われてしまう人妻がいるにはいた。
 浮気は浮気、家庭は家庭、割り切ったおつき合いでそれでもこじれるところに味が出るらしい。2人とも死ね。

 

・安倍太郎千枝松泰隆
 名前が長すぎて登場人物紹介にフルネーム入ってないのウケる。
 ゴキブリに転生するはずだった男が尼の功徳で人間もう1回やることになったけど功徳ある尼の方は悩み多き苦界を離れて解脱し2度と人間に転生しないで済む瑠璃光の浄土を築いたって言えば輪廻転生ガチャの惨さがわかる? 設定が既存キャラといろいろ違うので手癖で書いても全然違う手触りになってるけど。
 もはや誰も暴走を止められない天文博士の下位互換、細かい技では父より器用。「解呪(ディスペル)」の勢いがすごい。出てきた端からガシガシ解呪する。天文博士、結局白桃殿建造物に仕込まれた兄上の呪い解けてないからな……呪いかける方ばっかりで解くの不得意かあいつ。
 これでこいつ、2巻で天文博士に脇息投げてたのがボツになりました。心せよ、人に脇息を投げる者はいつか脇息を投げられる。
 16歳、落ち着きがないし陰陽道とか微塵も信じてないし及第して陰陽師にならなくても純直にゴマすって受領になって一攫千金というナメた根性なので、天文博士が絶対言わないようなことも言えるぞ!
 この物語で唯一「クソ恋愛脳の平安貴族ども!」と他キャラをブッタ切れるキャラであり、平安時代には稀なる純粋童貞人間。今マガポケであさきゆめみしが無料公開されてるの「光源氏の童貞喪失が書かれていない」と言うが平安男性は身分が高ければ高いほど童貞に価値がない。
 これくらいの身分で下に弟が3人いて傍流で初めて童貞を守ることができる。
 ときどき、全然知らない女の人の夢を見て泣く。

 

・安倍泰躬
 自分のキャラに惑う35歳。
陰陽師なのに修験者に拉致られて唐突に大峯奥駈することになる」は安倍播磨守靖晶がやる罰ゲームの予定だったが使うところがなかったので、丁度いいから行ってみなさいと京の都から放り出したら馴染む馴染む……
 すっかりガチ山岳宗教に酔って帰ってきた。天狗道まっしぐら。本物の古典マッチョ宗教にかぶれた。峻険な山道を登る筋肉だけが真実だ。
 京~吉野が歩きで片道3日、吉野~熊野・大峯奥駈縦走コースが片道7日で往復で20日にプラスアルファで熊野詣で3日、予備日で山中フリー修行日2日の1か月。
 充実した1か月を過ごしたものの、京で彼に声をかけたのは普段鳥取県投入堂とかを根城にしている知らん人。
 修験道縦走パーティーには安倍の陰陽師を見知っている人もバッチリ何人かいた……
「……安倍の天文博士だよね?」
「エー。違イマス、ワタシハケチナ小役人ノヤス。サーンゲサンゲーロッコンショージョー」
 仕事に疲れた35歳はなりふりかまわなかった。命令されたら女装も厭わない16歳の親。今回の仮装大会会場はここですか。命令されたら女装も厭わない16歳がとても親に見せられない格好をしていたのに軽々とそれ以上を繰り出すお前は何だ。
「男は登山とサウナとメンズエステで自己実現!」
 白桃殿さまが婚約解消令嬢内政チートムーヴでママ友に受けるためにサブカルやオカルトを嗜んでいたら奇想系ガチ宗教中年男性が打ち砕きに来た。おいたわしい。
 ……奇想系ガチ宗教中年男性、全然京極堂じゃないな……何でそんなことに……?
 俺ではない、こいつがメンズエステ好きなのだ。なぜか別当邸にいた脱毛メンズエステの達人、祐高さまの担当者ではない。祐高さまの担当者、こいつより身分高いはずなので。この時代、整容・理髪は専門職がいないので何となく皆で持ち回りでやっていたら上手下手が発覚して上手いのがバレると仕事が増える非合理システム。
 ……ということで『パリピ晴明』は大峯奥駈中に見た幻覚……いやメンズエステに目覚めたの京に帰ってからだった。いい加減にしろよ。大峯奥駈パワーで千年後の映画『ドライブ・マイ・カー』のあらすじもわかる。そんなことまで。
 役小角死んでから数百年経っているので弟子を自称するのは勝手だが、あの格好で安倍さんちに帰ったら一族全員に寄ってたかってしばかれるので別当邸に来た。何て甘えた男だ。
 こいつ、そのうち蕎麦打ち始めたりするんじゃないの。蕎麦がきが鎌倉時代発明、蕎麦切りは江戸時代発明の超チート。麺を打てても醤油入りのつゆが錬成できないぞ! この時代の醤は味噌と醤油が分かれておらず発展途上。味噌だれで食ってもうまくないんだ! どうする陰陽師
 桔梗の息子の新品の服借りていきなり天井裏に登ってドロドロにしやがった! 桔梗さんご立腹! この時代の窃盗罪は、同じ価値のものを返して詫びればOKではない! 弁償プラス笞や棒でしばかれる! どうする陰陽師
 ところでこの話は祐高さまが白桃殿さまを止めなければ『縦横無尽のウォークラフト』と似た展開をたどるが、白桃殿さまも兄上もウォークラフトとは違う反応をする。が、そうなるとこいつが自前のカリスマで吉野法師と高野山熊野水軍を引き連れて参戦するのか……?
 内陸の京都で熊野水軍どうやって使うんだよ何なんだよ。

神泉苑の〝御亀さま〟
 泰躬と同い年の35歳、クサガメアルビノ個体。
泰躬幼少のみぎり「珍しい亀、主上に献上しないのですか」
泰躬の父「そのうちなー」
 ~15年後~
泰躬「そろそろ亀を献上しませんか」
泰躬の兄「そのうちなー」
 ~15年後~
泰躬「あっ! 献上するの、面倒くさい! だからか! 初めて父の気持ちがわかった! わたしはこの一族の一員だったんだ!」
 泰躬幼少のみぎり、こいつしか友達がいない期間とかあった。
 安倍家では子供が餌やりをする掟になっていたので千枝松も5年ほど前、餌をやっていた。「絶対食うな」というのは神獣だから食べてはいけないのではなく安倍家のペットだからだった……
〝御亀さま〟は泰躬がテキトーに呼んでいるだけで安倍家の人々は〝亀太〟だの〝鶴〟だの〝シロ〟だの好きなように呼んでいる。

 

・大将祐長
 この時代に重めの女→男DVの被害者だったことが判明。
 どうやらそれ以外のことは何もわかっていなかった。4巻のネタになりそうです。
 朝廷の重臣陶淵明桃源郷モチーフで脱税希望表明していいんですか?
 このランクの重臣は納税なんかしてないか。
 こっちが11歳で忍さまと結婚していたら2人でのんびり落ちぶれて、この性格になっていない可能性が出てきた。
パリピ晴明』の現パロでこいつが何をしている何者なのか全くわからない。
 祐高さまがユニクロを着ていたということは一緒に服を買いに行ってない。
 この時代が女をたらさないと何も始まらなくて他に楽しみがないだけで、令和に生きてたら全然陰キャ非モテなのかもしれない。

 

・衛門督朝宣
 一方こいつは令和でも「喰える女は喰う」で方針が変わらない。
 ただし平安時代は女が飯を用意するのを男が食う(※作るのは料理を作る人)が、令和では女は手作り、男はイカしたレストランに連れていくという文化的差異がある。平安時代に女の飯を食わないこいつは果たしてどんな令和人になるのか。
 サイゼリヤメチャメチャ叩いて炎上したりするのか。
 今回出番は少なめだが。
「デキる男の朝帰り」
 朝は3時とかに起きる。平安の日付変更はこの辺らしい。
 まだ暗いうちに手探りで服を着て夜道を帰って、家でもう1回寝て、朝飯を食って身仕度して参内。
 夜が長いので分割睡眠する。
 ということで夜にエロいことをすると当時の照明では女性器の細部など見えない。
 昼間は顔を垣間見るのが精一杯でトイレを覗くどころではないし、女は恐らく夜中、真っ暗な間に風呂に入っている。男は参内前に朝に入る(※家に風呂がある高級貴族の場合)
 ということで祐高・純直・朝宣は恐らく明るいところで女性器を見たことがない。
 遥かに身分の低い女相手に無茶苦茶しているお兄ちゃんはある。荒三位は謎。

 

別当祐高
 残念ながら祐高さまは偃息図に詳しい。
 なぜ詳しいか。
 この当時の性教育
兄「父上、二郎も結婚するのですし男女の契りというものを教えてやってください」
父「そうだな。やってみせるから誰か相手をしなさい」
祐高「あの! 実践じゃない方法! 実践じゃない方法はないんですか! 本とか!」
兄「これは我が家が無茶苦茶なのではなく日本家屋で夫婦の寝室が独立したのは昭和辺りの新しい文化で、それまでは広い部屋に雑魚寝で家族が横で寝ていても平気でおっ始める。子供はそれを見て育つものだったからわざわざ性教育などしないのが当たり前だった。布や衝立で仕切られている寝殿造りにプライバシーなどない」
 ~こうして彼は他人に聞くのをやめた~
祐高「真面目に漢籍を読んで学ぼう……ええとこの時代の体位は竜翻、蟬附、亀騰、海鷗翔、野馬躍、三春驢……何がどうなっているのかわからぬ。誰か、絵に描いてくれ」
 ~こうして祐高さまはいつの間にかお抱え春画師を雇う身分になった~
 この時代の春画源平合戦の頃の大火事で残らず燃えたが、あるのはあった。
 絵の上手い人を養って画材を提供するところから始めなければならない。
 豊穣を祈る縁起もの、性教育のため、単なるスケベ、いろいろあったものと思う。
 もっと後の時代には戦勝祈願で鎧櫃に春画を入れていたらしい。
 実用以外にもいろいろな需要がある。ご贈答にも最適。
陰陽師が教える本当に気持ちのいい房中術」もつけて天下取ろうず。
 多分、彼は庭いじりが趣味→庭師に指示するのにイメージボードを描く、ので山水画を描くスキルがある。上手いか下手かはわからんけど。

 

・少将純直
 ~千枝、お披露目~
純直「ブッ」
祐高「(今こやつ、吹き出したぞ。自分は夢にうなされるほど嫌な女装を千枝松に強いておいて笑うか? 笑うか普通?)」
千枝「お笑いぐさでございましょう。折角ですからもっとドカッと笑ってください。わたし、脱いでもすごいんです!」
祐高「もうよい、千枝松!」
千枝「父ならこれくらいやります! 父にできることならぼくにもできる!」
祐高「対抗するか!? しないと思うぞ!?」
 忍さまメインの後半に出番が少ないという設定的欠陥が浮き彫りになったわけだが、そろそろ終盤の大盛り上がりに参加したいよな、君も。

 

・桜花
 隠しステータス弘徽殿ポイントというものがあり、すぐに貯まると思っていたら今回はレベルアップに至らなかった。
 弘徽殿女御からのクエストを受注すると貯まる。
 また次巻頑張ってください。
 皆さんが「貝合わせ」と思っている蛤の貝殻使った神経衰弱ゲームは「貝覆い」
 この時代の「貝合わせ」は持ってる貝殻の品評会。「合わせ」とは紅白戦のような感じで左と右のチームに分かれて戦うこと。3人集まれば「大会」みたいな感じ。絵合わせ、歌合わせ、菖蒲合わせなどいろいろな競技で戦っていた。
 別に貝殻の使い道はない。
 恐らく身分の高い人相手に勝ちすぎてはいけないが、しょうもないもん見せて負けすぎてもいけない。
 金箔貼ったり絵描いたりする技術はもうちょっと後かもね。

 

・忍
 このゲームは人妻1人が「魔術師」1人とコンビを組んで至宝【大聖歓喜天】を完成させて手に入れた人が勝つはずだった。
 結果:1人だけ「夫」を持ち込んだ忍さまの反則負けで流局。
 他の人妻は誰も心配した夫がついてきたりしていない、これはつらい。
 しかも大聖歓喜天は資料の読みをミスっていたので最後の方でバタッと回収してあれで終わりです。
 ここでシリーズが終わったら最悪だぞ忍さま!
 マジここで終わるなよ!?
 挽回しないと!
 どう考えても祐高さまが悪いのに忍さまが挽回しなければならない、何て理不尽な!
 二郎取り戻した後で授乳しているがこの場面、おむつを確かめた方がいい。
 おむつ確かめると食事中の方に支障が出るし専用の機材が必要になるし後の段取りで動けなくなるのでストーリーの進行のために授乳するが、すぐ後で白桃殿さまが衝立を倒しまくるので物陰に隠れるということができず堂々とその場でまろび出すことに。
 混乱してたんですよ。
 戻ってきた二郎が腕の中でバブバブ言ってる状態で小夜にキレるほど彼女は強くない。

 

・『仏罰』
 ご覧の通り3巻の「後」の話です。
 これも構想段階では太郎が花とか持ってくる話だった。こるもの先生、「子供が花とか持ってくればナントカなるだろう」と思いすぎ問題。
 子供が産まれた後から妊娠以前まで時系列を巻き戻すループ物、作者はともかく主人公は何様のつもりだという怒りから生まれた短編。お前の人生や世の中の景気がパッとしないことなど子供が知るか。
 ということで別当祐高卿は子供がかわいくて忍さまや自分に似ているから好き、だけではいけない。憎たらしくてキャーキャー奇声を発してウザくていつかお前を殺すものであってもお前はその責任を取れ。忍さまは既に3度命を懸けた。DVのようなしんどいことをする必要はないが太郎くんはどんどん祐高さまを追い詰めていこう。
 なにげにコットンがまだ日本にない時代なので「綿」は「蚕の繭を柔らかくほぐしたもの」で超高価です。ドン引き。
 恐らく祐高さまは、兄上のいたずらで「従者だけが」ものすごいお仕置きを喰らって泣いているのを何度か見てドン引きしている。兄上本人、祐高さま本人は免罪される。
 この状況、祐高さまの方の精神状態次第で「あなや、死ぬる、はたり」で死んだフリすると思う。気分でリアクションが違うのは教育に悪いからちゃんと統一しよう。

 

・『パリピ晴明』
 現パロを考えるとどうしても天文博士が現代で何やってるのか1人だけ職業が思いつかない問題、1人だけそのまま渋谷に転生することで解決。衣装着てるだけで現代でそのまま通じる職業、陰陽師
 説明台詞で済ますな、もっと地の文のエピソードにしろと思うがこのネタをそんなに丁寧にする必要皆無やろ。
 平安の別当祐高卿の趣味はガーデニングと「川で綺麗な石を拾う」だが、令和の藤原祐高くんは石を拾う方のスキルツリーを伸ばして「恐竜の化石発掘」だ。令和の藤原祐高くん、多分花の名前全然知らん。
 渋谷で通りすがりの陰陽師と千円で写真撮る令和陽キャの忍さまはフラッシュモブ全然いけると思う。

 

・『忍さまは御簾の外』
『吾に辱見せつ』と対にするためファンボックス時から変えた。8年でいろいろありました。

 

・作業用BGM
杉本紗和「シナヤカナミライ」
やくしまるえつこ砂原良徳「Ballet Mecanique」
米津玄師「Pale Blue」「PLACEBO」「迷える羊」

 


 追記:
・「忍さまがピンチのときに、隠れていた祐高さまが出てきて解決する」構造は1巻と同じなので、味を占めた祐高さまが同じことをやったらバッドエンドになるのはむしろ正解なんですよ!などと供述しており。というのを書くのを忘れていた。