夢の仕事場

こるものさんは『DIY高校生(仮)』の執筆のために毎日ファミレスやカラオケボックスに通い、飲み放題のコーヒーフレッシュとグラニュー糖を入れなきゃ飲めたもんじゃない紅茶を飲み続け、クソマズイフライドポテトを喰い続けたため、糖尿の検査結果が非常に悪かった。
このままじゃダメだ。
自分で淹れた紅茶ならもうちょっと健康的だし、するめとガム噛んで耐え忍べるし。


とりあえず、暖房が効いていてコンセントがあって、飲食禁止でない場所はどこかにないか。
しかしマンションを借りられるほどの収入はない。
そんな俺に姉から提案。


「ばーちゃんの離れ使えば?」


離れで執筆する小説家。


……メッチャ死亡フラグですやん。
しかもこのばーちゃんは25年前に他界したのだが家族の誰とも血縁がない。
(こるもの家は母屋の他にばーちゃんの離れ、物置が3つ、俺が生まれて以来1回も鶏が入ってたことのなかった鶏小屋がある。
うち鶏小屋はスズメバチの巣がかかった疑惑によってまるごと撤去したが、まだまだデッドスペースがある)


出入口の戸の絶妙な位置にあやしい穴が開いている(直接室内は見えない)
何だか怖い日本人形がある。
東山魁夷」と書かれた木箱がある。


「……これ、本陣殺人事件の現場じゃないの?」
「大丈夫、ここにオカンアートや君自身の黒歴史が」
「その後ろにある電ノコは何だああああああああ!」
「こっちのいかついケーブルとライトは……」
「何年か前に植木屋が忘れて行った」
「近所なんだから届けろよ」
「この茶箪笥は……」
「……邪魔な位置でもないし、置いとこう。開けたら何が出てくるか、恐ろしい」
「このプラスチックケースに入った大量の掛け軸は」
「遺産相続でもめたとき、取られたくないから預かってくれとそれっきり」


私生活は社会派、性別は叙述トリック、父方のじーさんは京極堂のパクリ、特異体質、そして家族構成は横溝正史のこるものさん。
混沌とした現場だったが、一応2時間で何とか場所は確保できた。


父「……ここ、バルサンした方がええんちゃうん」
俺「つってもここ木と紙と布しかなかったから、棲んでる虫って紙魚ヒメマルカツオブシムシなんじゃ。これまで暖房入れてなかったからネズミが寄りつく理由もないし」


近所のホームセンターでこたつが布団込みで7千円だったので即買い。
石油ファンヒーターだと日本家屋のスカスカの壁から温風が逃げてしまうので赤外線ヒーターも買った。
パソコンも移動した。


父「このままじゃ無用心だから、鍵つけろ。ホームセンターで売ってる掛け金でいいから」
俺「掛け金って死亡フラグが増すやんけ!」


果たして俺はこの仕事場で生きていけるのか、乞うご期待。