『赤の女王の名の下に』ネタバレなし後書き

ぶっちゃけた話、4巻は「大型トラックが右折する前に、ちょっと左に頭を振った」のでした。


というわけで5巻は湊俊介目線でしたが、当初彼のコンセプトは


京極堂になれなかった男」


でした。
……今となっては、京極堂になれなくてもこれはこれでいいんじゃね?という感じですが……
メフィストの誰かの選評で「京極堂を目指すな! 超えるか、別のことをしろ!」というのを見て、じゃあ違うことをやろうとしたわけですが、まさかここまでかけ離れるとは自分でも思ってなかった。


この話、実は最初にフグ食ってる頃、最終章のほとんどは全然考えてませんでした。
プロットではとても悲しい終わり方をする予定だったのに、何かいつの間にか毎年年賀状が来てて、同窓会に行って……
当初「あの女の子の消息を捜す決意をするところ」で終わる予定だったのが、何かどんどんどーでもよくなってしまい……
あんまり悲しい話だったのでちょっとだけ慰めてやろうかともう一章書く予定だったのが、だんだん自分でも「何でこいつのフォローをしてやらにゃならんのだ」とムカつき始めたので削ってしまいました。
これが「作者の意図とは別に勝手にキャラが動き出す」という現象です。いやマジで。
ちなみに削った一章は、高校の教室にまだあの2匹の金魚が生きているというエピソードでした。
金魚はうまく飼えば20年くらい生きますが、大体、白内障で失明してしまいます。
(この金魚水槽、今ではまず見られないバイメタルサーモスタットを使用していました)


湊俊介のもう1つのコンセプトは、「ミステリにはありがちな変人探偵」。
真樹が事件を解決しないメタメタ探偵なので、対比として真っ当な探偵も用意しておこうかと。
(パラクロの最終章、いらないってよく言われるけどあれなかったら恐怖の1行切りに回されてたと思う)
美樹は……探偵としてはあんまりいないだけで、実在の生物学者に比べると全然まともだったりする……
(昔のアナーキーだった頃の畑正憲のエッセイとか読むと本当に無茶苦茶。
「何かの事故で自分の手足がもげるようなことがあったら、ぜひ食ってみたいので嫁は冷凍保存の準備をしとけ」とか書いてあった)


しかしこれを公言すると、「湊だってありがちなタイプじゃねーよ!」と総ツッコミを受けます。
なぜだろう。
この話の中で、犯人が自殺したら泣くの湊だけだぜ。
ちなみにカラオケでイタリア語オペラを熱唱する男は、実在する。


それにしてもこの話。書くのは楽しかったけど、しんどかったです。
湊の眼鏡のブランドを決めるだけで2時間とかかかってた……
何か、あんまり意味もないのに魔術書を5冊も6冊も借りて読んでたし。
しかしメフィスト賞に送りつける前、友人に下読みを頼んでいたのですが、それまで全く感想を寄越さなくて「読んでないのかお前」と思っていた人がこの話になって突然「湊萌ええええええええええええ!!!!!」という熱い長文メールを寄越してきたのが印象深い。


6巻『ピラルクー編(仮題)』は現在プロット段階ですが、久々にあの人とかあの人とか出してみようと思います。
探偵助手としてはっちゃけた高槻君の今後も考えると楽しいw